• マージーボックス

10月のご挨拶

先月はマージーボックス、たまたまライブする機会が二度ありまして、ひとつはご案内した通りのものでした、御陰様で多くの方のご来場を仰ぎ楽しく過ごさせていただきました。10年を過ぎると次はマンネリとの闘いです。ビートルズは宝の山で、挑戦する頂はいくらも見えてくるのですが、登り手(私達)の怠慢も同じだけ湧き上がります。“面白がって演奏する”、ここを忘れずに進み行きたいと念じております。

リマスター版のCD、お聴きになりましたか?

バラ売りってのもどうかとは思いますが、さりとてボックスにして一つ四万円弱が二つってのは痛い出費です。でも聞かねばなりません、世の中にはこういうカモだらけです。あっという間にミリオンセラーになるんじゃないでしょうか。ボックスがミリオンセラーなんて聞いたことありませんがね。でも評論家が言うだけあります。私レベルの耳でも明らかに違います。やわらかくて奥行きがある、楽器それぞれの音がくっきり聞こえる、特に初期のモノラル版の違いは歴然です、ベースがちゃんと前に出てきています。

友人に音響のマニアがいて(アンプやらスピーカーに凝ってる奴、再生機のマニア)そこに昔のレコードと今までのCD(87年に出た普及モノ)とを持ち込んで聞き比べたんです。最悪が高校生時分に擦り切れるほどに聞いていた東芝EMI版のレコードです。キンキンと妙にトレブル効き過ぎていてなんとピッチが高い!んです、びっくり。Please please me を聞き比べたんですが、レコードは最後まで聞けませんでした。耳に痛いんです。もう一つレコードがあって(今度は別の友人のものです、こいつはレコードコレクターです、こんな奴ばっかり・・)、それはイギリスのパーロフォンというレーベルから出た、発売当時のLP、イギリス版のLPです。これは日本版よりは聞き易い。でも評論家が褒めるほどの(彼らはCDよりもイギリス版のLPの方がいい音するなんて言いますから。後で言いますがマスタリングする音源が大元に近いからでもあるのでしょう)びっくりはなかったです、とっても期待して聞いたんですがね。イギリス版の、発売当初のLPなんて初めて聞きましたし、百万も二百万もするレコード再生機で聴いているんですよ、期待するでしょう?

でも、そんなにびっくりしなかった。

耳の肥えた友人もそれほどに違わないななんて言う。あらら。で、次に旧版のCDかけるとこちらはおとなしい、いい音してる。LP特有の、針が溝を走るシャリショリ音がないですから、そしてこの音質やバランスにこちらの耳がすっかり馴染んでいるから、十分に聞けます。LPの方がいい、とは思いませんでした、この曲に関して言えば。そして最後にリマスター、モノラル版。あ、やわらかい。そう思いました。そして奥に深い、音が広がってる感じ。一音一音がはっきり聞こえる感じです。ああ、違うんだ。そう思いました。

リマスターって何よ」と、音響マニアに聞くと(この人は再生機だけではなくてレコードやCDにも薀蓄深いのです)、一番最初の録音に近いところの音源からCDに落とすということだそうです。つまり、録音テープは再生するたびに磨り減っていきますから、一番初めの録音版は残しておきたいですね、そのためにはコピーを繰り返し作るわけです。ビートルズのように世界中で売れてしまうと世界中でレコードプレスしなければなりません、世界中に音源を配らなければなりません、そのためにはコピーのそのまたコピーのと繰り返されて渡って行きます。音質は劣化するでしょう?あるいはどこかで誰かが手を加えてバランスや音質の変わったものがコピーされて渡っていくやも知れません。あなたの手元にあるレコード(あるいはCD)の元になる音源は一体原版から数えて何回コピーを繰り返してきた代物かわからないわけです。それは日本版のレコードに如実に現れてます。

今回のリマスター版リマスタリングという操作すること、マスタリングとはバンド演奏を録音したものを音量のバランスなど取りながらレコードやCDに焼き直すことです、リマスタリングとはもう一度マスタリングし直すこと、より原盤に近い音源を使ってマスタリングしなおすことです)は、ロンドンのEMI社に保管してあった原版音源(それに近い録音テープ)を丁寧にデジタル化してCDにしたものというわけです。

もちろん現在の技術者の耳でバランスや音量の調整されているのですから、当時のまんまというわけにいかないのでしょうが、そういう比較ならまだジョージマーチンという大参謀が存命なのですから彼の意見を聞けば・・なんて思いますが、いいえ、現代のデジタル技術でこそ蘇る音源なのです。今更にジョージマーチンでもないのではあります。あの当時にビートルズに熱狂した人たちが聞いていた通りの音、なんてのは今風の音ではないはずです。最近の音楽雑誌という雑誌は全てこのCDの特集です、評論家達が好きなこと言ってます。レコードモノラル版の方が勢いがあって荒々しくていいとか、昔みんながAMの小さなラジオで聞いたような、安物のレコードプレーヤーで鳴らしてたようなあの音はレコードのものだよな、なんて極論に進むものです。モノラル版は塊で全部の音が出てきますから、つまり分離が悪くベースが後ろに隠れたりなんてマスタリングになってしまうのですが、そこがいいと思うか、今回のリマスタリング版のように粒が揃って楽器の音が分離されてやわらかく出てくるのを優れていると思うか。結局は好みの問題かなというのが今の感想です(ベースの音が後ろに隠れているのが前に出てきた、この違いは All my lovingでよく判ります)。全曲聞いたのではないです。中には絶品があるかもしれません。サージャントペッパーズをモノラルで聞いたのも初めてでした。右左にきっちり分けられたものしか知らぬ耳には新鮮です。で、このCDでびっくりしたのはベースの音です。旧版のCDでもこのアルバムからポールのベースの音が変わっているのがわかりますし(楽器がリッケンバッカーになった所為が大きいのでしょうが)中でも with a little help from my friend と Fixing a hole のベースの音が大好きなんですが、リマスター版聴くとあららこんな音だったの?というびっくり。ずっとこっちの方が伸びて太くて・・・

という、つまみ食い(しかまだしていないのですみません)論評でした。一度旧版CDと聞き比べられるが面白いと思います。まずはヘッドフォンつけて。上等の再生機じゃないとスピーカーから出てくる音ではあまり区別がつかぬと思います(私の持ってる普通のコンボセットではわかりませんでした)。またリマスター版だけ聞いたのではこんなもん?で終わりますね当然。現代のCD音楽聴きなれている耳にはごく普通の音に違いないでしょうから。そういう意味では私のような、昔ながらの、という耳にしか訴えない代物なのでしょうけれど、これがまた同じ様なカモが世界中にワンサカいるもんだから儲け話になりますよねぇ。
こんちくしょう、商売うまいことです。

2009.10.1? 弘田直樹

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